ゆらめく資産の記録

日経のコツコツ投資報われ記事を勉強がてら検証した

「コツコツ投資が報われる」って誰が言った:日経ビジネスオンライン

僕でも突っ込めそうな内容だったのでここ半年ほどの学習成果を試すべく突っ込んでみようと思います。

内容としては3つの疑問を立てて、それぞれ記者による検証がなされています。全体の結論といえるものは特になく、「コツコツ投資」に対して疑問を呈するだけで、その代わりこうすればいいといった代案はありません。そのため総論には反論しようがないので各論を検証していきます。

疑問1 今の株価は買いか?

今後の上昇余地が小さいと仮定するならば、株式や、株式で運用する投資信託に投資するメリットは小さいはずだ。

それはそうですね。ここ20年ほど日本株が低迷してたのも事実です。

しかしその「上昇余地が小さい」と仮定する根拠が「トランプ大統領の政権運用が不透明」「アベノミクスで予想PERが12倍から16倍になってる」というのはあまりにも近視眼的、投資の言葉でいえば短期的すぎるんじゃないでしょうか。その2つだけをもって「老後資金の形成に向けた20~30年の視点でみると」なんてことは言えないでしょう。トランプの政権運用の不透明さが証券取引に対して今後20〜30年影響し続ける? アベノミクスの数年間で上がった予想PERは20〜30年後まで織り込んでいる? そんなことはないでしょう。

長期的な視点でも先進国の株価の先行きには疑問が残る。株価は企業が将来生み出す利益や配当予想から適正水準が求められる。代表的な株価指数の長期的な先行きとなると、それぞれの国のGDP(国内総生産)の成長性との相関性が強いとされる。

日本はここ20年ほど、平均1%を切る低成長を経験している。欧米の成長率も足元では年1~2%台。

その理屈でいくならGDPが大きく成長していたバブル絶頂期に日本株を買いまくるのが正しいとなりますが、その20〜30年後が今です。直近のGDP成長率に基づいて20〜30年先の株価を"予測"するのはナンセンスでしょう。

すなわち「今後の上昇余地が小さいと仮定する」ならば、たしかに投資するメリットは小さいです。しかし今後の上昇余地について、しかも20〜30年後にどうなっているかなんて、確たることはほとんど何も言えません。20〜30年前のバブル期に現在のような状態になっていると正確に予測するのが困難なのと同じです。

ちなみにこの項目は「今の株価は買いか?」と題されています。20〜30年間ホールドするのであれば「今の」株価はどうでもいいです。「ここから成長が期待できるかどうか」が重要です。投資対象は日本株式以外にもあるわけで、この20年の日本株が低迷していたからといってそれを今後の日本株式はおろか、すべての投資対象に適用するのは無理筋でしょう。成長が期待できないので現金で持ち続ける、というのもそれはそれでひとつのポジションですので否定はしませんが、株を買うことへの疑義としては成立していません。

疑問2 コツコツ投資は現実的か?

こういった悲観論に対して、積み立て推進派は「長期的に積み立て投資すれば、株価の変動リスクを抑制でき、最終的には安定した利益を確保出来る」と反論するだろう。

私の反論は上記のとおりでそんなことは言ってません。ご査収ください。

20~30年間規則正しく、同じ投資信託などに積み立て投資を続けてきた人間が果たして皆さんの身の回りにいたであろうか。

バブル崩壊やリーマンショック時の株価急落に動じず、突然の出費で投資資金を切り崩すこともない。雨にも風にも負けず辛抱強く一定の投資を続ける。そんな宮沢賢治のような個人投資家を私は知らない。

積立貯金なら聞いたことがありますし(普通預金金利が1%を超えるすごい時代があったらしいですね)、貯蓄型の保険についても利用者は多く居たようです。身の回りの人にわざわざ聞いたことがないので伝聞ですが、相当数居るからこそ話題になるんでしょう。日経新聞を購読してる人についても同様で、私が知らないだけでたぶん世の中には居るでしょう。

普通預金なり貯蓄型保険なりといった金融商品が投資信託に置き換わりつつあるだけだと思います。無リスク資産からリスク資産になっていますが、無リスクだと普通預金金利0.00%で個人向け国債でも0.05%とかしかつかないので、金庫として使うくらいしかあてがありません。元本割れリスクを嫌って貯金するにせよ、そのリスクを負ってでも一昔前の預金金利水準程度のリターンを狙うにせよ、それは個々人の判断によるもので、よほど不合理なものでないなら他人がとやかく口出しする筋合いはないでしょう。

長期的なドルコスト平均法は極めてストイックで経済的に合理的な人間を前提としている。NISAやiDeCoをきっかけに投資を始めた人々が、今後30年同じ銘柄に投資を続けるなんて不可能に近い。

ここの理屈がいまいちよくわかりません。自動積立の設定をするだけなのでは? 「今後30年同じ費目で光熱費の払い込みを続けるなんて不可能に近い」と言われてるのと同じくらい不思議な主張です。

30年間で職を失ったりして資金不足になることはあるでしょうが、それが一時的なものなら積立も一時中断すればいいだけじゃないでしょうか。慢性的に資金不足なら投資以前の問題なので家計を見直しましょうとしか言えません、と書いて気づきましたが、お金をありったけ使うタイプの人にとってはたしかに「極めてストイックで経済的に云々」と言いたくなるのかもしれません。「コツコツ投資」はおろかコツコツ貯金すらままならないのなら、それは「コツコツ投資」ではなく「コツコツ」ができないというだけのことです。コツコツ貯金ができるのなら「コツコツ投資」も金銭的に問題なく実行可能なので、あとは上に書いたようにそのお金をリスク資産に振り分けるか否かの違いだけです。

「高度経済成長が終わった日本では、相場は上がったり下がったりの連続。長期投資が良いなんて幻想だ。長く持ち続ける事ほど辛いものはない」。バブル期に有名証券会社で活躍した70歳代投資家の言葉が重くのしかかる。

おおむね日本株の低迷については疑問1のセクションで書いたことの繰り返しとなります。日本株が信用できないのなら他のものに投資すればいいだけの話で、これは「コツコツ投資」ではなく「投資対象」の話となります。

この項目では「コツコツなんて極めてストイックな人にしかできない」「20年前に日本株に長期投資してても報われなかった」という2つの論点が混ざっています。

前者については無リスク資産を積み立てている人(=一定額の貯金がある人全員)はそれなりの数が居ますので、まあそれを難しく感じる人は居るにしても、筆者がいうほどではないでしょう。積み立てる対象が無リスク資産かリスク資産かの違いでしかありません。

後者については投資対象を分散することでおそらく対処可能というのがコンセンサスでしょう。あらゆる資産クラスが数十年に渡って下がり続けたことはたぶんありません(きっちり調べたことはないので推測が混じっています)。どちらにせよ1990〜2010年の日経平均だけを見て日本株の今後もその他もダメだと断ずるのは了見が狭いと言わざるを得ません。

疑問3 税制優遇は魅力的か?

例えば30歳で年収が500万円の場合、年間10万円をiDeCoで積み立て投資すると税金が3割戻って来る。つまり実質7万円の投資となる。仮に運用によるリターンがゼロの場合、60歳時点では7万円が10万円として返ってくる。

これを1年あたりに平均すると約1.2%の利回りとなる。

一方、50歳で年収1500万円の場合は、税率が高いため所得控除の恩恵が大きく、利回りが年6%弱になる。こちらの方が魅力的だ。

ええと、30歳の例だと年間約1.2%の利回り(単利)が上乗せされるということですよね。普通預金金利が0.00%の時代だということを考えればかなりお得なんじゃないでしょうか。そのぶん60歳まで資金が拘束されますが、その対価が1.2%で見合うかどうかは個々人の判断となるでしょう。話にならないほどの低水準ではないと思います。

しかしそもそも、なんで30歳 or 50歳という二者択一なんでしょうか。30歳、31歳、32歳…と基本的には毎年(毎月)少しずつ資金を投じていくのが前提の制度です。30歳で始めたら50歳でも同様にやっているはずです。どちらかを選べというたぐいの制度ではありません。50歳になって初めて加入したほうが高い利回りになる、ということなんでしょうか。しかしこれは年齢で利回りが変わるのではなく年収で変わる、つまり所得税率が高いほど所得控除の利率が高い、という当たり前の話であります。

しかし例だとはいえ、株価の右肩上がりは信じないのに年収の右肩上がりを信じているのは私と正反対ですね。

本来積み立てが必要な若くて収入が少ない人ほど、所得控除のメリットは受けにくい。

所得控除、それも若いうちだけを見ればそうでしょう。年金というものは老後の備えなので、若いうちからメリットを享受できるのなら、それは年金としておかしいという話になるかと思います。国民の老後の備えを税的に優遇するのがiDeCoですので、老後以外への備え(急な疾病への支払い余力の確保など)は別途行う必要があります。それはコツコツ貯蓄かもしれませんし、コツコツ投資かもしれませんし、保険かもしれません。

なおiDeCoには所得控除に加えて運用益非課税という優遇税制もあることも申し添えておきます。

アメリカを参考にされても……

これら3つの疑問を考えると、「貯蓄から資産形成」を推奨する政府や証券各社の言葉には首を傾げたくなる。

これら3つの疑問をつぶさに見ていくと筆者の言葉には首をかしげたくなります。それが商売だから仕方が無いと言えばそうかもしれないが、やはりどこか一般個人の感覚として受け入れられない部分が残る。

アメリカの歴史から学ぶべき教訓は「コツコツ投資は報われる」ではなく「右肩上がりの相場が個人投資家を作る」という事なのかも知れない。

これはまったくそのとおりだと思います。深く同意します。

多くの人が「n年前に株を買っておけばよかった」と感じることで株を買う流れができるんだと思います。「(さらにm年後に)m年前に『n年前に株を買っておけばよかった』と思った時に株を買っておけばよかった」と株を買わなかった後悔にさらに追い打ちの後悔が加われば、人間心理としてはもういま買ってしまえとなりやすいでしょう。そして右肩上がりの相場ではそういう衝動的な買いすら報われてしまうので、ますます強気に買い向かう人が増えるという循環があるのでしょう。経験したことありませんが景気がいいというのはこういうことなんでしょうかね。羨ましいかぎりです。

それで結局なにがどうなの?

証券会社にせよ政府にせよ、「長期投資は絶対成功する」という前提に立っている。

 

もちろん個々人が資産形成を考える事は大切だ。公的年金だけでは老後生活を支えられなくなる時代はやってくる。しかし、それは政府や証券会社に急かされて始める事では無い。

 

長期投資の強みは、その名の通り長い時間軸を持っているということ。数年くらい様子見したって問題はない。

筆者の言い分はこのあたりに集約されているように思えます。「長期投資は絶対成功するという前提に立っている」ことにされており、「政府や証券会社が急かしている」ことにもされています。その上で「数年くらい様子見」というのも悪くないのでは、とのんびり締めくくられています。記事のタイトルも"「コツコツ投資が報われる」って誰が言った"ですからね。作者の気持ちを抜き出せ、という国語の試験であれば上に抜粋したところが正解でしょう。

ここだけ見ればまあそうかもしれませんねで済むのに、蛇足的に散りばめられているあやふやな知見がその主題を覆い隠してしまっています。「なるほどコツコツ投資が絶対ではないのかもしれない。では筆者の考える資産運用とはいかなるものか」という姿勢で読んでいくと、「個々人が資産形成を考える事は大切だ」と言いつつ具体案はない、「数年くらい様子見」と言いつつ何がどうなれば買うべきなのかの指針も示さない、ふむふむあれ記事終わった、となって消化不良や肩透かしを食らいます。それに加えて変な知識に基づいた侮辱のようなものが長期投資を実践している読者の気持ちに残ることになります。この記事を読み終えて満足を得られるのはどういう人なんでしょう。老後不安に怯える我々はiDeCoすらも否定されてどこへ向かうのでしょう。60歳くらいまで様子見すればわかるでしょうが問題はおそらく解決しません。