ゆらめく資産の記録

財やサービスや将来の備えではなくお金そのものが欲しいのだ

そういう世情だからか、元来の性格だからかはわかりませんが、これといって欲しいものがありません。突然大金が手に入ったら何に使うか聞かれると「貯金」(今なら「株」)と答えるような人間です。欲しいものがあってもせいぜい数十万円あれば買えるものばかりで、頻度も年に1,2回といったところです。

ドラム式洗濯機や液晶テレビのように、「どうせなら」で必要以上に多額を費やしているものはありますし、ロボット掃除機のように効能というより期待を買う投資っぽい買い物もしています。これといって日々節約しているわけではなく、数千円単位の出費であれば不必要な(=怠惰に由来する)外食や積ん読が頻発しているKindleでの電子書籍購入は月に何回かあります。主観的には、欲しくなったら購入を断念することはまずないし、ザルな家計管理だなと思っています(が、キャッシュフローは黒字なのでまあいいかとも思っています)。

たぶん所帯によっては、衣服に強いこだわりがあって被服費がかさむとか、しょっちゅう飲み歩くので食費ないし交際費がかさむとか、子供が居て教育熱心なので教育費がかさむとか、ガジェットが好きなのでとりあえず買ってしまうといったように、何かしら家計のなかで突出した費目があるんだろうと思います。そういう情熱や事情が欠けているために「欲しいもの」と言われても何も出てこないのです。

しかし財やサービスの購入、すなわち消費にはあまり食指が伸びなくとも、お金そのものは欲しいと思っています。

動機としては、なんというのか、「総資産額が増えるとうれしい」というプリミティブな感情が大きい気がしています。このプリミティブな感情が株をやる楽しみを支えていて、これがないまま将来不安だけが株をやるモチベーションになっていたらたぶん長続きしないだろうと思います。これが人によっては衣服へのこだわりだったり飲み会の参加だったりするんでしょう。

「ちゃんとした服じゃないと恥ずかしいし、場合によっては不利益を被ることもある」「飲みニケーションとかあるし人との繋がりは重要だ」というような表現でこの感情を正当化するように、「資産運用で老後に備える」というのも、その言葉だけがあるんじゃないかとすら思っています。そのトピックに興味がなければ「ユニクロでいいし、不利益といわれても…」「酒がなくても交流はできるでしょ」というように反発してしまうのと同様、「資産運用めんどうそう」「元本割れリスクが」「何を買えばいいのか」というように反発してしまうわけです。

「将来のため」だけをモチベーションに資産運用を続けられる真面目な人も居るでしょうが、「お金が増えてうれしい」という半ば道楽でやってる気楽な人も居ますし、過激派はただのギャンブルで株やFXをやってることもあるでしょう。将来不安は共有しやすいトピックですが、市場に居る全員が将来不安で売買しているわけではありません。気をつけたいのは「お金が増えてうれしい」という動機でやっている人が、言葉に取り込まれて「将来のためにもなる」「将来のためにやらなければ」のように、自分の中にある動機を見失ってしまうことです。ギャンブルでやっている人に積立投資は合わないでしょうし、将来不安の解消を目的とする人が農家でもないのに農産物の先物をやるのもよくわかりませんが、それぞれの金融商品自体は別に悪いものではありません。ただミスマッチなだけです。ミスマッチは概ね不幸を呼びます。

「貯蓄から投資へ」と言われても、貯蓄がその人の性分にあっているなら変える必要はないでしょう。金融庁の視点で見れば変えるメリットはあるでしょうが、その人個人にはありません。単に投資を知らなくて食わず嫌いしているだけなら、まあ「試す」くらいはやってもいいでしょうけど、いきなり資産の大半を投資に振り向けるのは無茶です。

自分がなぜそれをやっていて何を愉楽と感じているのかを自覚しつつ、無理に他人を巻き込むために自分の中にない言葉を作り出して自分自身でその言葉に振り回されたり、または他人の言葉に飲み込まれないようにするのが重要だと僕は思っています。そして同時に、今の自分が知らないだけで、よりよい何かがあるのかもしれないと探索し続けることもまた重要だと思います。前者については真面目な人がエビデンス不足の金融商品を相手にしなかったり、後者についてはギャンブラーがブーム前のビットコインを目ざとく見つけるとか、そういったことです。僕の場合は「大損しても0円未満にはならない」を最低ラインとして、しばらくは道楽として参加しようと思っています。