ゆらめく資産の記録

本田静六『私の財産告白』『人生計画の立て方』がつまらなかったのは人間性が違いすぎたから

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これです。あちこちで好評価を得ているので読んでみたものの、「つまんないし得るものもないな」という感じでした。そのため同時に買っていたAmazon.co.jp: 人生計画の立て方 eBook: 本多 静六: Kindleストアを長らく読まずに積んでいたんですが、暇だったので読んでいたらつまんない理由がわかってきました。

氏は古き良き歪んでないまっすぐなナショナリズム(最近見たマレーシアに関するこういうツイートのようなもの)を持っていて、隠居してなお「国家社会のために自分は何ができるか」みたいなことを考えているような人です。僕にはそういう意識がないため根本的なところで食い違っています。僕にとって隠居はゴールに近いものですが、氏にとってはただの状態です。

また、氏は長期の人生計画を立てるような折り目正しさも持っています。いっぽう僕はいきあたりばったりの無計画な人生を歩んでおり、今のところそのおかげでまあまあ成功していると感じているため、今後もその成功体験に引きずられて計画性のなさは改善されないままでしょう。

これらの相容れない部分が「つまんない」の構成要素です。「得るものもないな」は氏の資産運用、というか、財をなした方法についてのところにかかります。

氏は質素倹約を貫徹して常に給与の1/4を貯蓄にまわしつつ、森林への投資に成功して財をなしました。前者は現代にもそのまま通用しますが、後者については何らかの読み替えが必要でしょう。「専門知識を活かして株を買った」あたりがまあまあ近いでしょうが、専門知識を活かしてApp Storeでアプリ売ってみたとかLINEスタンプ販売したとかでもいいですし、要するに自分の優れている部分を有効活用するために浮いた資産を投資した、ということになります。ポイントとしてはこの「給与1/4貯金」「専門知識による投資」のふたつだけです。

まず給与1/4貯金ですが、これは発想自体は平凡ながらもそれを徹底したところに凄みがあります。徹底できなければ何の意味もないので、その方法が有益かどうかは読者が実践できるかどうかにかかっています。とはいえ給与の1/4を天引き貯金するだけなら成功しても隠居後の暮らしに心配がなくなるだけです。生涯賃金は大卒で2.5億円くらいらしいので貯蓄額は6000万円くらいになる、かと思いきや所得税などが引かれるので4000〜5000万円くらいかな? そこからさらにインフレ負けもありえますが、銀行預金金利もおいしいはずなので、まあトントンと考えておきましょう。何にせよ現役時代の暮らし向きには(節約癖がつくくらいで)これといった影響はありません。

次に専門知識による投資です。まず普通の人はこの専門知識というものを持ちあわせていません。大学にまで入っておいて専門知識がないとか何してたんだよって感じですが、ないものはないので仕方ありません。業務知識や業界知識は会社づとめをしている人なら誰しも持っているはずですから、これを活用して儲けることは可能でしょう。仕事で動画編集に携わっていればYouTuberとしては有利でしょうし、不動産業界に詳しければ不動産で成功しやすいでしょう。種銭は1/4貯金の実施で手元にあるとして、あとは多少の時間や労力を割いて副業っぽくやってみればいいということになります。うまくいけば種銭が何倍にもなって返ってくるはずですし、失敗しても投じた資金が1/4貯金の範囲内であれば回復可能なダメージですから、まあ失うことを恐れずにやってみるのがいいでしょう。

この専門知識による投資はまあなるほどという感じです。銀行にお金を死蔵する不毛さを解消できるし、投資(あるいは副業)によって本業だけでは得られない刺激を得て生活が充実することもあるでしょう。が、抽象度が高すぎて、自分の血肉にするにはそれなりの想像力や行動力、情報収集能力などが要求されます。雰囲気で株を買って終わりという話ではなく、自ら小さな事業を起こすくらいのものを本田氏は想定しているように思います。上に書いたように、氏は老いてなお社会貢献意欲が衰えない人ですし、1/4貯金を貫徹できるだけの意志の強さもあるようなエネルギッシュな人だからこそ出来たことなんじゃないかと思っています。あるいはもっと簡単な話で、たまたまおいしい山林物件情報が転がり込んできたので資金を投じたというだけのこと、つまりはただの偶然だったのかもしれません(まあその偶然を活かすための資金と度胸があったというのは称えられるべきですが、あまり参考にはなりません)。僕は会社の仕事だけで給与的にも労力的にもお腹いっぱいですし、幸運の発生率を高めるにはアンテナを高くして日々過ごす必要がありますが基本的には待ちなので狙って起こすわけにもいかず、どちらにせよあまり参考にはならないなと思いました。とはいえ銀行にお金を死蔵するのはさすがにもったいないので、雰囲気で株を売買する程度のことはしていますし、今のところはこれで充分だと感じています。これが「得るものもないな」の正体です。

別に儲け話を期待して読んでいたわけではないんですが、自分とはあまりに気質の違う人の、その気質ゆえに生じた成功譚を読んで、自分に引き寄せて参考にしようとしたのが間違いだったというだけです。簡単にいえば「合わなかった」ということです。一方で『マネーの公理』は面白かったので、気が向いたら読書感想文としてまとめるかもしれません。